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【TOV二次創作SS】

※注意!
TOVユリリタ 妄想学園パロディその2です。こういうのが苦手な人はすぐに引き返すのが無難でしょう。問題ないという方は↓↓↓へお進みください


























「なぁ、今何時か知ってるか?」
「なによ、まだお昼休みでしょ」
 後ろから聞こえたユーリの声に対して、本に目を通したままで返事をする。もう少しで読み終わるから、待ってなさいよ。
 すると呆れた声で、
「まぁ、見事に大ハズレなわけだが」
 そう言われて、ちらりと教室の丸時計を見る。……時刻は17時。
「――やばっ」
 またやってしまった。
 読みかけの本を置いて辺りを見回せば、窓の外はオレンジ色に照らされている。教室にはユーリとあたし以外誰もおらず、昼間の騒がしさなんてどこにもない。放課後特有のどこか寂しい空気が漂っていた。
「お前、本当に集中すると周りが見えなくなんのな」
「うっさい」
 これでも気にしているのだ。……少しだけど。
 良くも悪くもあたしの長所。一度集中すると区切りがつかず、いつまでも没頭してしまう。
 気づかぬ間に放課後を迎えたことは何度もある。時には研究にのめりこみすぎて、家に篭もりっぱなしになることもしばしばだ。
「って、なんであんたがここにいんのよ?」
 ここは下級生の教室。さっきはさらっと返事をしたが、普通に考えれば上級生のユーリがいるのはおかしい。
「リタがいつまで経っても校門に来なかったからな。かわいい天才少女さまが、さぞかし集中なさってるんだと思ってね」
 そう言いつつ、彼はごそごそと鞄から何かを取り出して、ずいっと前にだした。
「なにこれ?」
「ほほう。天才リタさんには、これがサンドイッチ以外に見えると」
「バカにしてんの?」
「ちげえよ。どうせお前のことだから、昼飯も何も食わないで本読んでたんだろ?」
「うっ」
 そういえば、何も食べてないかも。こういうことは一旦気づくと一気にくるもので、お腹がくるるると鳴いてしまう。
「ほら、腹が鳴いてんぞ?」
「ば、ばか! 聞くな!」
「文句いう前に、さっさと食えよ。……味は保障しないけどな」
 机の上に置かれたプラスチックの入れ物には、何種類かのサンドイッチが綺麗に並んでいた。タマゴ・ツナ・ハムとレタス。はさんである具はそんなところで、ものすごい手作り感を感じさせる。
「……これ、手作り?」
「ああ」
「な、なんでこんなもん作れたのよ?」
 動揺しながらそう問いかける。やばっ、なに、わざわざ作ってきたの? 内心は嬉しさでプチパニック状態だ。
「家庭科室に寄ってちょろっとな。ちょうど料理研究部の連中がいたんで、材料と場所を貸してもらった」
 “気前がよくて助かるな”と彼は笑う。多分、頼れる上級生であるユーリに助けられたことがある部員がいたんだろう。
 ぱっと見いい加減に見えても、困った人を放ってはおけないユーリに助けられ感謝している生徒は多いのだ。
 それにしても、この男はあたしのためにわざわざサンドイッチを作ってきたというのか。あたしが何も食べてないのを見越し、料理研究部に材料と場所を借りて? やばっ……どうすんのよ、これ。すごく嬉しくて、顔がニヤけそうなんですけど。
「はっ、ずいぶん気がきいてるじゃない?」
 素直になりきれないため、思わず偉そうな態度を取ってしまう。
「はいはい、いいから早く食えよ。これなら手も汚れねえだろ?」
 “わかってるわかってる、お前の本心はちゃんと伝わってるさ”と言いたげな顔。……いや、今更隠すも何もないのはわかってるけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいじゃない。
 最近はもう常に本心がバレバレだ。……これが彼氏×彼女というものなのだろうか。
「ほら、あーん」
「するかっ!」
 ユーリの手からサンドイッチを奪い、口いっぱいに頬張る。……むぅ、かなり美味しい。
 本を読むことそっちのけでもぐもぐとサンドイッチを食べていく。その間、こっちをじーっと見ているユーリは無視していた。
 だけど、最低限の礼儀は忘れちゃダメだ。
「ごちそうさま。……おいしかった」
「おそまつさん」
 全部食べ終わったあと。さっきの“あーん”を受け取ってもよかったかな――。なんて気の迷いが、ちょっとだけ頭をよぎった。

「そういえば、こんなもんも持ってきたんだが」
 今度はごそごそとビニール袋から何かを取り出し始めた。そして机に並べられたのは――。
「プリン?」
「正解」
「まさか、これも作ってきたとか言うんじゃないでしょうね?」
「さすがに手作りは無理だな。これはその辺で適当に買ってきたやつさ」
 サンドイッチを作った上に、プリン買ってきたのかあんたは。ちょっと準備良すぎない?
「あー、うめえな」
「食べるのはやっ!?」
 どうやらプリンに関しては自分が食べたいから買ってきたものらしい。そういえばユーリも相当な甘党だったか。……あたしも甘い物好きだけどね。
「なんだそんな物欲しそうに見て。仕方のないやつだぜ」
「見てないわ」
「ほら、ひとくち」
「っ! わ、わざわざあんたから食べさせてもらう必要なんてないわよ!」
 ……と言っておきながら、あたしの頭の中ではさっきの気の迷い(あーんのこと)が再臨していた。ちょっと食べてもいいかな、なんて考えてしまっている……。
「おい、食うならはやく食えよ」
 そっぽを向こうとしても、目はちらちらとユーリが差し出しているスプーンの上を見てしまう。
「し、仕方ないわね。断っておくけど、あんたが強引にやってるんだからね」
「はいはい」
 前のめりになりながら、すくったプリンが乗ったスプーンの先にゆっくりと顔を近づける。
「んっ」
 はむっ、とスプーンをくわえると口内にプリンの甘さとカラメルソースの弱い苦味が広がっていく。ついでに、ユーリに食べさせてもらったという事実で体も熱くなっていく気がした。
「じーっ」
「あによ。その“うわ、ほんとに食べちゃったよ”みたいな顔は」
「まあ、それも少しは思ったが……」
 こいつ、自分でやっておいてなんだその言い草は。
「どっちかっていうと。リタが恥ずかしそうにプリン食ってるとこを見て、頭がやられそうになった」
「~~~っっ!?」
 なんであたしに食べさせたユーリが気恥ずかしそうなのよ! 自分の恥ずかしさと、あんたの照れた顔のダブルパンチのせいで、穴があったら入りたい気分になるじゃない!
「くくっ、お前、ほんとかわいいヤツだよな」
「うるさい! 静かにしろ!」
「もう一度やるか。ほら、ペットに餌付けしてるような感覚だと思えばいい――」
「誰がペットよ、誰が!!」
 くぅー、恥ずかしい。もしかしてこいつ、ここまで計算してプリン買ってきたんじゃないでしょうね!? だとしたらとんでもないやつだ。
「なんだよ。この前はネコミミと尻尾付けて“ご主人様♪”とか言ってたくせに」
「わーーわーーー!?」
 い、今の誰か聞いてなかったでしょうね!? もし少しでも聞こえてたやつがいたら……。
「燃やさないと」(ぼそっ)
「物騒なことは言わない方がいいぜ?」
「誰のせいよ!」
 ああもう、もう読書どころじゃない。こんなに心が乱された状態で本なんて読めるかっての!

「……で。なんでオレはお前の家に向かってるんだ?」
「いいから、黙ってついてきなさいよ」 
 夕焼け空がに夜の闇にが混ざり始めた頃。あたしとユーリは帰り道を並んで歩いていた。
 けど、本来ならユーリはこっちの道に来ることはない。彼の家は明らかに逆方向だ。それなのに、何故ついてきているのか? それは、あたしが彼を引っ張ってるからに他ならない。
「……特に用があるわけじゃねえからいいけどよ。そろそろ理由を教えてくれてもいいんじゃねえの?」
 いい加減焦れてきたのか、彼は家々に挟まれた細い道の途中で足を止めた。
 しょうがない、そろそろ話すしかないか。
「さっきさ、サンドイッチ作ってくれたでしょ?」
「そうだな」
「今度はあたしが夕食を作ってあげる」
 そう言った途端、ユーリは目を丸くした。
「……悪い、理由がよくわかんねぇ」
「だ、だから! ……あんたがサンドイッチ作ってくれたでしょ。その……お礼っていうか……いや、違う。このままあんたに何もしないで、後で変なこと頼まれるのが嫌なのよ」
「素直に“夕飯を作ってあげたいから”とか言えないのか?」
「違う! あくまでも、後で変なこと頼まれないようにっていうのがメイン。お礼っていうのはオマケみたいなもんよ!」
 これは半ば嘘ではない。お礼がオマケなのは違うが、変なことを頼まれないようにの意味も少なからずあるのだから。
「オレがリタに変なこと頼んだことがあったか?」
「忘れたとは言わせないわよ。あの日のことを……」
 “なんだっけ?”みたいな面で首を傾げるユーリ。そう、過去にこのアホな先輩はあたしに恩を売ったことがある。そしてある日、その恩を返してほしいと要求してきたのが、
『今日一日の間、これ(ネコミミ)付けててくれ」
 だったのだ。
 いや、有り得ないでしょほんと! でも、借りがあったのは事実だから、あたしはちゃんとやったわよ? その結果どうなったか。クラスはもちろん、人が居るところを歩くたびに視線とひそひそ声の嵐。友人であるエステルには驚かれ、生徒会長のフレンには真面目に心配される始末。
 あげくの果てに、そんな馬鹿なことを頼んだ張本人は“すげえ可愛いぞリタ”と頭を撫でながら大爆笑ときた。
「いやー、アレはすげえよかったよな」
「しっかり覚えてるじゃない!」
「当たり前だろ。あんな面白い――もとい、あんなに似合っている姿を忘れられるわけがないぜ」
 かーーーっ、ほんとにこいつは! 愉快犯なのか知らないけど、たまに本当にアホなことをやり始める。これで学校でも指折りの頼れる人物と評されているのだから、世界はどこかおかしいと言わざるを得ない。
「とにかく、わかったでしょ。あたしはね、二度とあんなことをしたくないのよ」
 今度はネコミミウェイトレスとか言い出しそうだ。割とマジで。
「そりゃあ残念。でも、ま……」
 一瞬の間を置いて、ユーリは顔を近づけてきた。
「人目に触れないところで頼んだら、やってくれるだろ?」
「…………ふん、ばっかじゃないの」
 ま、まあ? どうしてもっていうなら、考えてやらないでもないけど。……なんだろ、あたしってもしかしてユーリにすごく甘い?
「ま、それは置いとくにしてもだ。夕飯をご馳走してくれるってことなら、喜んで行かせてもらうぜ」
「じゃあ荷物持ちよろしく」
「ああ、いいぜ。それぐらいはやらねぇとな」
 ……まったく、半ば冗談で言ったつもりだったのにこの返事だ。ここで“面倒だなぁ”とか口にすれば、追撃できたのに。
「ちなみに、なに作るんだ?」
「そんなの、決まってるじゃない」
 怪訝そうな顔をするユーリに、したり顔で返してやる。作るのはもちろん、あたしの得意な料理に決まっている。

「ほい、お待たせ」
「おお~っ、美味そうじゃん」
 出来立ての料理をテーブルに運んでやると、ユーリがわかりやすく感嘆の声をあげた。メニューは炊きたてのご飯、キャベツ・キュウリ・ミニトマト・コーンが盛り付けられたサラダ、ぱぱっと作れるコンソメスープ。そして、あたし特製の“コロッケ”だ。
「それじゃあ、早速――」
 低いテーブルにふたり分の夕食が並べおわり、向かい合う形でカーペットの上に直接座る。
 両手を合わせて、
「「いただきまーす」」
 それぞれのペースで口に運ばれていく料理たち。しかし、あたしは自分の分を食べるフリをしつつ、まずはユーリの顔色を覗っていた。
「もぐっ……。おお、美味いぞこのコロッケ」
「あ、当たり前でしょ。これでもコロッケはあたしの得意料理なんだからね」
 どうやら満足いくものに仕上がっていたようで何より。やっぱり自分の作ったものを美味しそうに食べてもらえるのは、かなり嬉しい。
 いままでに何度もユーリに手料理を振舞ったことはあるが、その度に少なからず緊張はする。でもそんなのは杞憂に終わるのだ。だって、彼は毎度のことながら完食してくれるし、おかわりもしてくれる。
「あー、やっぱリタの作る飯は美味いな。毎日作ってほしいぐらいだぜ」
「え”」
「どうした?」
「なな、なんでもないわよ!」 
 しまった、思わずどもってしまった。くっそー、不覚にも顔が熱くなったじゃない。っていうか、何!? “毎日作って欲しい”とか、プロポーズかっての!
「も、もうちょっと言葉を選びなさいよ」
「ん? 毎日食いたいって思ったのが、そんなにダメか?」
 しかもこれだ。割と意地が悪いこの男は、時に天然っぽい発言をする。エステルじゃないんだから……、こいつにそんなこと言われたら身が持たないっての。
 こ、ここはなんとか仕返しを…………。そうだ、このコロッケを使って、
「ユーリ」
「あん?」
「はい、あーん♪」
 どう! さっきのサンドイッチの時のも兼ねて、あーんの仕返しよ。ほら、さっさと恥ずかしがりなさい。
「もぐり」(←食べた)
「ちょっ」
 えっ、ちょ、ちょっと。そんな簡単に……。
「なんで食べるのよ!?」
「なんで怒るんだよ?」
「ふ、普通こういうことされたら食べないでしょ!」
「いや、美味いものを突き出されたら食うだろ、普通」
 ユーリは余裕の表情で指で口元についたコロッケの欠片をすくいとる。こいつは……いけしゃあしゃあと。
「というか、なんだ。お前、オレに食べさせたかったのか?」
「違うわよ!」
「おお、逆ギレした。よーしよし、どうどう」
「フカァーーー!!
 あたしは馬か! ああもう、作戦失敗どころの話じゃない。むしろカウンターをくらったわよ。ますますあたしの方が恥ずかしいじゃない!!

 そんなことをしながらも、時間は過ぎていき――。

「ふぅ、ごちそうさん」
「……ふん、お粗末様」

 夕食を食べ終わり、食器をさげる。その際にキッチンから窓の外を見れば、もう完全に暗くなっていた。
「うーむ、この時間は全然面白い番組やってないな」
「こら、なにのんびりテレビ見ようとしてるのよ」
 座ったままチャンネルを変えるユーリの手から、リモコンを奪い取る。すると不満げな視線を向けられた。
「そんな目をしてもダメ」
「ケチめ」
「っていうかさ、夕飯は食べ終わったんだし、そろそろ帰る支度した方がいいんじゃないの?」
「別に? 帰るのなんていつでも出来るしな」
「はいはい、そーですね」
 ここからユーリの家はそれほど遠くない。まあ、歩いて15分はかかるかもしれないが、比較的近いと言えるだろう。
「オレとしては、帰りたくないんだけどな」
「……あんたの口からそんなセリフが出るとは思わなかったわ」
「ずいぶんな言われようだな。ただ単に、少しでも長くお前と一緒にいたいだけだよ」
「~~~ッ」
 また、こういうことをさらりと! ああ、顔が赤くなってきそうだ、これはマズイ。
「おお、赤くなった」
「赤くなってない!」
 いや、待った。冷静に考えて、ここであたしが赤くなるのはおかしくない。そもそも、状況をよく考えてみよう。
 夜にひとつの部屋で、男女がふたりっきり(しかも彼氏×彼女)。この後誰かがここに帰ってくることもない。そして、目の前には“帰りたくない”と言い出す、いぢわるでスケベでたまに外道なヤツが……。
「あ、あうぅ……」
「どうした、リタ。なんかいつにも増して、顔が赤いぞ?」
「ち、近い! そんなに寄ってこなくてもわかるでしょ」
「なんだよまったく……」
 そこで、ピンと何かに気づいたかのようにユーリはニヤリと笑った。やばい、これは獲物を見つけた狼の眼だ。
「ははぁ……。お前、もしかして何かをすごい期待してるのか?」
「お、お生憎様。その推論はこれでもかってぐらい、間違ってるわよ!」
「じゃあなんで、オレから離れようとしてんだよ」
「あんたが近づいてくるからでしょ――だから、寄るなってば!」
 あたしはよっぽど後ろに下がったのか。いつの間にか背中には壁。左右に逃げる隙もなし。目の前には迫ってくるユーリ。こ、これは絶体絶命?
「まあ、そういや最近はご無沙汰だったかもな」
「あ、あんたが何を言ってるかわからないわよ。この、エロ狼!」
「一応言っておくと、その発言で十分なに考えてるか伝わるからな」
 ユーリの右手が、あたしの頬を包むように触れてくる。一段階、体温が上がった。
「あ…ぅ…」
「……抵抗しないのかよ」
「う、うっさい。そ、それ以上近づいてきたら、燃やすわよ!?」
 こんなのただの虚勢だ。実際そんなことをする気なんてない。あたしの目線はどんどん近づいてくるユーリの顔――特にその一部に釘付けになっている。
「~~~ッッ」
 もう、好きにしたらいいじゃないの! どうせ抵抗なんてできませんよ! 心の中でそう叫んで、ぎゅっと目を瞑った。



「……いつまでそうしてんだ」
「えっ?」
 あたしの体感時間だけが無駄に長かったのか、それはわからない。けれど、予想していたものは来ない上に、ユーリはいつの間にか少し離れた位置に座っていた。
「……まったく、欲求不満(?)な後輩だな」
「あ…ぐっ」
 く、くやしい! また騙されたのかあたしは!! うわ、ちょっ、滅茶苦茶屈辱なんですけど!?
「あんた性質が悪いわよ!?」
「へいへい。それはわるぅございましたね」
「な、なによ! なによなによ! もう、早く帰りなさいよね」
「いや、それがな。腹いっぱいになったら、眠くなってきた」
「知るかああああ!!」
 絶叫が響き渡る。ご近所迷惑かもしれないが、そんなことは知ったこっちゃない。
「わかったわかった、そんなに怒るなって。1時間くらいしたら帰るからよ」
 そう言いながら、ごろりと横になるユーリ。ちゃっかりその頭はあたしの足の上に乗った。
「……ねえ、なにこれ」
「ふぁぁ……。1時間したら起こしてくれよ。その間、この枕を貸してくれ」
「人の足を枕扱いしないでほしいんだけど!?」
「……ぐぅー」
 え、ほんとに寝たの? ちょっと早すぎない?
「ね、ねえ。ちょっと……」
「Zzzzz……」
「……マジで?」
 どうやら、ほんとに寝てしまったようだ。軽く頭をはたいても、両手で顔の形を変えても効果はなし。アタシはこの後、1時間もこの体勢を強いられるのか。
「……はぁ」
 なんだかな……。今日一日、ユーリが関わった辺りから叫びっぱなしな気がする。そのせいで体力は普段より消耗してる……けど、代わりに退屈はまったく感じていなかった。
「……あんたのせいよ」
 正確には前者が“せい”、後者は“おかげ”かな。ああ、まったくもう満足そうな顔で寝ちゃってまあ……だらしないったらありゃあしない。
「……誰も来ないわよね」
 そうだ、今はこの家にふたりしかいない。しかも、ユーリは寝てる。その間にナニカしても、知っているのはあたしひとりじゃないか。
 ジーーッとユーリの顔を見つめる。そしてまた、顔の一部分に目がいった。
「……アホな彼氏をもつと大変なのよ。その辺わかってる?」
 その分、退屈とは無縁になっており、楽しいことが多くてしょうがないことも、あんたは知らないんでしょう。
 ゆっくりと顔と顔の距離を縮めていく。あと数センチも近づけば触れるくらいの距離。彼の吐息を感じた。
「んっ」
 意を決して、瞼を閉じる。

 しかし、その次の瞬間。

「リター! お土産持ってきましたよーー!」
 バターンと大きな音をたてて玄関の扉が開かれた。そこにいるのは、あたしの友人であり、ユーリとは同学年の学園のマドンナ――エステルさん。
「ほら、リタ。これ、家の用事で出かけた先で買って…きた…おみや……げ?」
 突然の来訪者に呆然とするしかないあたし。間もなく、こちらを見つけたエステルとはっきりと目が合った。
「え……エステル。違うの、これは……」
 必然的にエステルの視線は、横になって眠るユーリに注がれる。続けてユーリに顔を近づけていたあたしに視線が戻ってきて。直後、それが交互に繰り返された。
「ご、ごめんなさい! お邪魔しました!!」
「いや、だからちがっ――」
 見てはいけないものを見てしまったかのように、エステルは勢いそのままで玄関の扉の向こうへと去っていった。よほど慌てていたのか、ドテンとコケたような音が一回だけ聞こえてきた。
「あ……ああ……」
 み、見られた。見られた見られたみられたミラレタ……。
「……いやぁ、すげえなあいつ。なんつータイミングで来るんだよっていう……」
「ほ、ほんとよ! って……ユーリ!?」
「おう、おはようさん」
「な、なんで起きてるの?」
「ん? ……まあ、リタに膝枕してもらってたオレでも、さすがにあんだけ騒がれればなぁ……」
 ユーリはどこか明後日の方向に目を泳がしながら、それっぽいことを言い出した。が、さすがのあたしも今回だけはわかる。
 これは、嘘だ、と。
「あ、あ、あ……あんた、まさか最初から」
「……悪い。寝たフリしてた」
 そう言った瞬間、頭の中が真っ白になる。つまりアレだ。あたしだけしか知りえなかったはずの事を、見られたわけだ。しかもふたりに……。
 あたしは膝枕をしていた足を外側に開き、ユーリの頭を床に落とした。
「あぶねっ」
 と、思ったらユーリはひょいと起き上がってそれを回避する。
「危ないだろ、おい」
「うるさい! おとなしく後頭部を床に叩きつけて気絶しろ!」
「ほーう? 今のオレにそんな口を聞いていいと思っていらっしゃると?」
「ど、どういう意味よ」
 どこか楽しげに笑うユーリに危機感を感じ、後ずさる。しかし、案の定すぐに壁にぶつかった。
「眠っているオレにイタズラしようとしたのは――」
「イヤーーー!?」
 最後まで言おうとした口を、両手で塞ぐ。が、次の瞬間には逃げられないよう抱きしめられてしまっていた。
「っ、ぷはっ。なんだよ、最後まで言わせろよ」
「燃やすわよ!?」
「んんー? まだ口の聞き方がなってないみたいだな。こりゃあ、しっかり調教しないといけないか?」
「ちょ、調教って――」
 言いかけたところで、次の言葉はユーリによって塞がれて外に出ることはなかった。
 不意打ち気味のやり方に、体が強張る。けれど、数秒続いたソレが終わる頃には甘い痺れだけが体に残っていた。
「やっぱ帰るのはやめだな。今日はずっとリタといることにするわ。……覚悟しとけよ?」
 気楽に言っているが、目は怪しく輝いている。そう、さっきも見た、獲物を狙う狼のような……。
「……っ」
 その瞳からの暗示にかかってしまったかのように、あたしは無意識に頷いてしまっていた。




おしまい


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プロフィール

Noah

Author:Noah
同人サークル『ノアリベルタ』のブログです。主にイベント関連や趣味について書いております。
絵が描けない人なので、その時はまっている作品の小説を書くことが多いです。小説はリンク先のpixivにもあります。

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